TagTanaka

Three poems by Ikuko Tanaka – translated by Miho Kinnas & Shelly Bryant

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1. 雪の時間   深雪に埋めつくされた苅田は見知らぬ国の原 降り積んだ雪に記憶の風が 吹き寄せ吹きだまりができる 斜面ができる さらに雪が降りさらに風が吹き やがて像の耳がかたどられていった いま おさない象が群れからはぐれたのだ はぐれた象のために 吹雪はひそかに胴体の輪郭を描いていった さらに雪は降りさらに風は吹き 胴体のつづきに長い鼻の輪郭を描いていった ああ やっと 低い声で助けの信号を送りはじめたのだ しかし 風は吹き荒れ雪を舞い上げ やっと伸ばした鼻を消し去り 胴体を消し去り 耳のかたちひとつだけを残した 谷間の川面から吹き上げる風が ほうほうと身をよじり 象とたわむれているのだ だが 聞く耳ひとつあればいい わたしは ふと自分の耳に触ってみる わたしの一番深いところでねむっている無数の耳 忘れている耳 はぐれたわたしの耳のために...

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